第一部「波濤」プロローグ


―――某所

 男の白衣は、もはや白衣とは呼べないほどに汚れていた。元の持ち主であった父親の顔は思い出せない。それでも上から逃げてきたという父親の話は、彼にとっては希望の象徴とも呼べるものあった。彼はゆっくりと二回ばかり深呼吸をして、装置に電源を入れた。彼と装置の本体を繋ぐ半透明のパイプを、音もなく電流が駆け抜けた。
「しばらく会えなくなるね、アルマード君。」
 一瞬の後、眩い光が視界を白く塗りつぶした。
2016/05/12
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