――――ユーレスティア(ユール)州南東部 ノーツァレル

「ふぁぁあぁ……。」
 テラスデッキで大きく伸びをする一人の男がいる。日の当たらない位置のシェーズ・ロングを選んで座り、薄目で流れる雲を見ている。サンテローモス号が船旅に出てからは一週間ほどが経過しており、最初から乗っている乗客は多くが潮風の匂いに飽きて船内のアトラクションに興じている。そのためデッキは無人に近い。男は昨日寄港した港町ノーツァレルから乗り込んできたものと思しく、面白げな顔で沖合の大気をゆったりと吸い込む。
「そろそろ、合流しなくてはな。」
 途端に真面目な顔をして、がばっと上体を起こす――不満げな顔でずれたサングラスを直す。彼には約束があった。或いは策略と言ってもいいかもしれない。彼は右手に置いた大きな鞄に手をやり、息を深く吸い込む。さて、行くとするか。

L軸上の邂逅



外洋に出た途端 不意に吹きすさぶ風
鞄を握りしめてそっと腰を上げた

邪魔する者もない白群鏡の中
乱流望む邂逅の場所に立つ

マドロスっぽいかな……。って思って吸い始めたパイプに
軽く咽ながら顔を上げて
視線がぶつかったその瞬間を出会いと呼ぶのだろうか

けれどレンズ越しに細まった目と
手のダレスバッグの大きさに
一瞬感じた違和感には
目を瞑ったまま口を開く

「手紙くれたのはあなたですね。
いかなる事情か知りませんが
とりあえずこの船のチケット
ありがとうございました」

彼は少し微笑んでみせて
向かいの席に座った


「叔父さんによく似ているね。」――と彼は囁く。
「帽子のせいじゃないですか。」――と彼は返す。
他愛ない言葉を積み重ねた……。


概要を話そう君を呼んだ理由だ
信じがたいことだけど本当の話さ

「申し遅れた。俺はミカー・ロンデフェルド、ミカーで構わない」

そうして語られた彼の胡乱な話は
妙な説得力と疑念を孕んでいた

彼の言うことをただ信じることは出来ないけれど
本当であれば見過ごせないと
リスクと同じだけの強さでもって感じ取っていた

けれど連邦の外に亡命をすることを援助するならば
下手すりゃヤバめなことに巻き込まれて積み上げた全てが終いさ

叔父が死んでふと目が覚めたようなつもりになっていたけど
なかなか自分の判断すら信じてやれないんだ

……その後ミカーは眠そうにしてお部屋へ帰ってった

仕事柄常に持ち歩いている端末に電源を入れて
データベースの中調べて回ってみたけど
彼についてのデータはすこし前にほぼ消されていて
使えるような情報は殆ど得られなかった……。

太陽に照らされて巡り続ける
うねる蒼 揺すられる小舟の中で
顧みる暇もないイドラの下の
シークエンスから逃げ出す機を見てる

言い訳をしてさえ踏み出せない境と
惰性で越え続ける未知なき地平と

数値化されない妄想とL軸上に立ち尽くして
所詮隙間の片隅にさえ居遂せぬ者と知りながら
立ち止まれないと言い訳して
嘘をついてももがき続ける
極めて科学が発達した非科学的な世界で

撞着だらけのゲームならばいかなる結末も信じられる
綿埃のように潰れてしまった独りよがりな自由のために
薄明へ至る航路みち 舳を向けて


作詞・作曲・編曲:イトマ
声:クロード…イトマ
ミカー…紺葉
mp3でダウンロード
2017/2/19
戻る