――――フィセール州中部フリードアリア市

 自分がなんだか均一な 雑音 ノイズ に包まれていることに気が付いて顔を上げた時には、既に土砂降りだった。傘を差す気力もなく、雨水を吸い込んで重くなった服は身体にへばりついてずっしりと沈み込んでいた。クロードは濡れた地面に反射する街灯の光をぼんやりと眺めた。叔父は地元のそこそこ大きな造船会社の創立者の一人だった。両親を早くに亡くしたクロードにとっては、唯一血の繋がった存在だった。身寄りのない彼を引き取って、ずっと面倒を見てくれた叔父に、クロードは感謝してもし足りない気持ちだった。学費を貰って通った州立大学で海事工学を学び、いざ就いた通信士の仕事も叔父の紹介だった。血縁とはいえ親子でもないのにそうまでしてくれる叔父に、クロードは少し申し訳なくなって話したことがある。
 「本当にお世話にばかりなってて、ごめん。本当は今にでもお返ししたいのだけれど、今の俺じゃどうにも足らないんだ」
 すると叔父は少し困った顔をしてから、優しく答えた。
 「そんなことを気にしていたのか。それなら、ゆっくりと返してくれればいい。どういう形だって構わない。いつまでだって、私は楽しみに待っている」
 叔父が亡くなったのは、突然のことだった。長年の持病だったらしいが、クロードはそのことを知らなかった。仕事仲間と思わしき人たちが挨拶に来たが、辛くなるから、簡単な挨拶を返すほかは、黙っていた。クロードは深いため息をついた。容赦ない雨粒の猛撃に目を細めて頭上を見上げると、分厚い雲のタペストリーが天球を包んでいた。最も明るい月が、辛うじてその隙間から覗いていた。

零の塋域



夏の終わりの宵に見上げた第三の月Lluneと止めどない雨
ダイアモンドを見送った 静かに思い出と共に
俺が一人ぼっちで歩けた距離などたかが知れていて
分かっていたことだけれども 妙に穿たれたみたいだ

友達や仲間ならいないわけじゃないのだけれど
自分だけ取り残されたようなこんな気持ちになる
無様だろうと独り嗤った

いつしか辿り着いた見慣れた家のポスト
挟まっていた一枚の手紙を
手に取るなり気がついた
自分に宛てられたものだと

矛盾したサテライトの雲の直中で
臆さず歩くと誓った
疑似的なパレスは夢に消えた
ここから自由の羽根に手を伸ばしてく

差出人の名前はどこにもなくて怪しげだけど
彼?の言葉を信じるなら叔父の友人だったらしい
同封されていた客船のチケットに戸惑ったけど
その時の俺としちゃ何か救いにも似てたんだ

有休を消費してまで行ってやるべきなのかは正直分からなかったけど
衝動に背を押されるような気がして無視出来なかった

無力だと自分を呪うようなため息が
空を覆ってる気がしたから
ただ動くこと恐れる世界に
従順になろうとバカげた振りしてた
高架下に埋もれた水平線をさえ 愛せたから今があるんだ
その意味はまだ分からないけれど
未来を取りこぼしたくはないんだ

世界という無粋な劇で何を演じるかなど
どうだっていいのだといつだか言われた気がする


作詞・作曲・編曲:イトマ
声:クロード…イトマ
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2016/12/28
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