――――フィセール州北部シバル

 港に横付けするように停泊する大型客船サンテローモス号。夕刻には港を離れ、船旅へと発つことになっている。乗船口にはちょっとした列が形成されており、解消するまでにはもうしばらく時間がかかる。そのちょうど真ん中あたり、物珍しそうに周囲を見回している青年がある。彼は少し気合を入れ過ぎてしまった服装を恥じるように襟元を直しながら、優先乗船口の方を恨めしそうに一瞥した。中天に迫りつつある日射しの下、列は見かけよりも早く進み、ゲート手前まで彼を運んだ。彼は係員に促されるまま、乗船ICパスを機械にかざす。
「名前は」
クロード・レドウェルです」
 球形のためか、何やら眼球じみたカメラが目を光らせる。一瞬の沈黙の後、短い電子音が聞こえ、ゲートの内部が青く光った。
「よい旅を」
「ありがとう」
 簡単な挨拶を済ませ、クロードは船の内部に踏み込んだ。予想だにしなかった豪奢なシャンデリアの歓迎に面喰いながら、彼はひとりごちた。
「……面倒なことに巻き込まれてしまったもんだよ、まったく」

人を探しています



街は

琥珀

に閉じ込められたように暈けてる
夕日がボラードの影を陸に向けて投げかける

デッキから見下ろす豪華客船の船体は
見慣れたそれよりずっと綺麗だなって思う

職務でもなかったら当分縁の無さそうな
こんな船だけど ゆっくりしてばかりもいられない

人を探しています
顔も名前も知らない人を
人を探しています
このサインが分かる人を


風が止まり遠ざかる岸辺は水平線へ
内側では暖かなライトが間を照らす

この船上のどこかで誰かと待ち合わせとか
雑な予定だけど さっさと済ませ遊びに行こっか

人を探しています
顔も名前も知らない人を
人を探しています
あの手紙をくれた人を


探し回ってはいるもののどうしたものかわからない
向こうはこちらを知ってくれているのだろうか?
仕方ないから念のため持って来てたこのアイテム
叔父の帽子を深く被りレモネードかき混ぜて


人を探しています
顔も名前も知らない人を
人を探しています
このサインが分かる人を

人を探しています
顔も名前も知らない人を
人を探しています
この帽子が分かる人を
叔父の家のあの手紙を
出したその人を


作詞・作曲・編曲:イトマ
声:クロード…イトマ
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2016/12/02
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